IOC、2024年のパリ五輪をより持続可能な大会に。スポーツの団結力で再生可能エネルギー、雇用、健康等の社会課題を解決を目指す

 オリンピックは多くの感動を与えてくれると同時にその経済効果についても注目されます。しかし、経済だけではなく、環境、健康、インクルージョン等の社会課題に対して大きなインパクトを与えています。

 国際オリンピック委員会(IOC)は2024年にパリ五輪を開催します。環境、社会、健康等の多くの観点で新たな取り組みが実施されているため、パリ五輪が社会課題に対してどのようにアプローチしていく方針なのかを紹介します。

社会

 パリ五輪では、長期失業者、中小企業、恵まれない地域社会に機会を広げるビジョンを掲げ、雇用を優先テーマとして設定しています。

 同大会の開催により、イベント組織、観光、ケータリング、建設等の幅広い分野で15万人の雇用を生み出すと推定しています。

 未経験者でも働くことができるように、必要なスキルやキャリア形成のステップを可視化し、労働組合や職業訓練施設、リクルーター、公的機関と協力して雇用戦略を策定しました。

 また、全労働時間の10%を長期間就職できていない人材に対して割り当て、フランス人中高生を対象とした職業体験・研修制度、中小企業の育成等も行います。

 パリ五輪をきっかけに社会により良い影響を与える組織が発足しており、社会的なイノベーションを加速させるための基金「インパクト2024」が設立されました。

 これは、健康、福祉、教育、インクルージョン(※)、平等、環境の改善を促進するために、スポーツを活用するプロジェクトを支援するためのものです。

※インクルージョン:あらゆる人を排除せず受け入れること

 この基金は、2020年以降、3,870万ユーロ(約61億円)、1,000以上のプロジェクトを支援してきました。

 支援を受けたスポーツクラブや団体が、障害を持つ人々や、社会的に不利な地域に住む少女たち、高齢者や囚人など、約310万人もの人々への支援を行いました。

 また、パリの北東に位置するセーヌサンドニ県は、若者の割合が特に高く、経済性と多様性を特徴とする一方で、同国で最も高い失業率と貧困率を記録しています。そのため、パリ五輪主導による再生の優先地域となっています。

 具体的には、サイクリングのための道路建設や緑豊かな公共スペースの増加、スポーツ関連雇用の増加だけではなく、健康、教育、インクルージョンのための取り組みを行う計画です。

 すでに地域全体の公共施設で無料のスポーツ参加イベントが開催され、子どもたち向けの水泳学習プログラム、地元の学校での障害者意識向上キャンペーンなどが実施されています。

健康

 世界保健機関(WHO)の調査では、世界全体で成人の4分の1が推奨される運動量を実施していないとされています。

 フランス国内では、6歳から10歳までの子供の37%、11歳から17歳までの73%が、推奨されている1日60分の運動を実施しておらず、女性の47%、男性の29%が運動不足であるとされています。

 そのため、パリ五輪を通して、フランス国内でもっと運動してもらうよう呼びかけを開始しています。特に、子供、女性、障害者、高齢者、その他の社会的に排除されやすいグループに注力し取り組みを行っています。

 子供たちに対して、フランスの小学校で毎日30分の運動時間を設けることを提唱し、すでに成果が現れているとのことです。

 セーヌサンドニ県の子供たちには、水泳を教えるプログラム「1, 2, 3 Swim!」を展開し、2020年以降同地域の6,200人の子どもたちが水泳と水の安全に必要なスキルを身に着けることができました。

 このプログラムは全国に広がり、子供から大人まで有資格トレーナーがレッスンを無料で学ぶことができるプログラムとして提供されています。これまでに38のプロジェクトが実施され、2万人以上の子どもたちが学びました。

 都市デザインの見直しも実施されました。フランスの多くの小学校は休憩時間に男子がサッカーをするのに適した場所となっているため、女子が活動できる場所が限定されてしまいます。

 そのため、100万ユーロ(約1.5億円)を投資し、200校の校庭を改修し、男女問わず遊べる環境に変えていく予定です。

 社会人向けには、GoFor30!というキャンペーンが実施されており、職場で30分間のワークアウトを行うことが推奨されています。

 2023年6月までに、大会のパートナー従業員7,600人がこのチャレンジを行いました。これらの活動を通してパリ五輪のスタッフも行動を変わりました。

 これまでは従業員の31%がエスカレーターではなく階段を使うとしていたが、その割合は58%まで上昇しました。

 また、障害を持つ人々がより運動できるようにするために、2024年までに約3,000のスポーツクラブに対してトレーニングと支援を行う予定です。

 インパクト2024の支援先の中には、障害者や女子への支援を中心に行うグループも含まれています。

環境

 パリ・オリンピック、パラリンピック組織委員会は、大会開催地の立候補時から、2012年のロンドン五輪、2016年のリオデジャネイロ五輪との比較で二酸化炭素排出量を半減させることを宣言していました。

 どうしても削減できない二酸化炭素排出量についてはカーボン・オフセット(※)を行い、カーボンニュートラルを達成することを目指します。

 カーボンニュートラルが正しく実現されているかを確認するためには、排出する二酸化炭素排出量を可視化し、計測する必要があります。

 そのため、大会の準備段階から排出される二酸化炭素の排出量を推定、追跡、管理するためのツールを開発しながら対策を進めています。

※カーボン・オフセット:日常生活や経済活動において避けることができない二酸化炭素の排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行います。それでも排出される二酸化炭素について、排出量に見合った二酸化炭素排出量の削減活動に投資すること等で、排出される二酸化炭素排出量を埋め合わせるという考え方。

 二酸化炭素排出量を削減する取り組みは、あらゆる準備段階で行われています。インフラ面では、大会中に活用される施設の95%は既存施設や仮設会場となる予定です。

 唯一の新規施設となる水泳競技が行われる予定のアクアティスセンターは、貧困層が多く中学生の半分が水泳を知らないというセーヌサンドニ県のニーズに応えて建設します。

 プール以外にも、ジム、クライミングウォール、スケートパーク、個人・チームスポーツ用のエリアが設けられて、大会後も市民が活用できるようにする計画です。

 この施設には、多くの木材を活用し建設における二酸化炭素排出量を削減します。会場の運営に必要なエネルギーは屋根に設置される太陽光発電設備や近隣のデータセンターから回収された熱を再利用し、観客席は地元で回収されたリサイクルプラスチックを利用して建設されます。

 大会中に利用される電力は、風力発電と太陽光発電によって発電された100%再生可能エネルギーを活用し、約1.3万tの二酸化炭素排出量を削減する見込みです。

 仮設会場でもディーゼル発電機を使用しないよう設計されています。また、セーヌ川にも浮体式の太陽光発電システムを設置し発電量を増加させます。この設備は大会終了後に別の場所で稼働させる計画です。

 電力供給が途絶えた場合のバックアップシステムとして稼働させる発電機に対しても、バイオ燃料を活用することで、二酸化炭素排出量を削減できるとしました。

 加えて、二酸化炭素排出量を削減するために、公共交通機関へのアクセスが良好な会場を優先的に選定し、自転車専用の道路を整備しています。

 また、電気自動車や水素自動車の利用、充電設備等のその他の交通アクセスを充実させる構想もあるそうです。

 オリンピックは世界で最も注目されるスポーツイベントの1つです。スポーツをきっかけに人々の生活が良くなり、社会課題の解決に向けてアクションが加速していきます。

 どの活動であっても一人のアスリート、一つのスポーツ団体だけが努力をして社会を良くすることは難しいです。アスリート、企業、社会が団結し、取り組みをしていくことが重要となります。

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